今年はホークスが南海軍として「大阪」で産声を上げてちょうど70年。ソフトバンクホークスは、この70周年記念事業の一環として「南海ホークス」の復刻ユニフォームを着用して試合をする事を発表していた。創設70年の今年はホークスが大阪から去ってまる20年…。我々の手から離れ消えてしまった南海ホークスをまさか、もう一度目の当たりすることができるとは思ってもみなかった。

今回の南海復刻に際し、手放しで喜ぶ者。南海はあの10.15で終わったと思う者など悲喜交々…。さまざまな想いが交差しながらもその日はやって来た。

6月6日。数日前までは雨が心配されたが、南海復活を祝福するが如く天気は見事に晴れた。当日、現地甲子園で観る者。残念ながら都合がつかずにTVで観る者。皆がその日の仕事が手につかなかったことは容易に想像できる。
普段行きたくない球場のひとつである甲子園が、この日ばかりは眩しく感じた。入場口からスタンドへ上がる大階段、焼き鳥を焼く煙とニオイ、薄暮からカクテル光線がきらめく鮮やかなグリーンの芝。そして、フィールドには白に濃い緑のラインの入ったユニフォームを着た選手たち。胸にはシンプルに「Hawks」の筆記体。

正直なところ、この日を迎えるまではホークスが毎年本拠地で行っている「鷹の祭典」の大阪版という感覚を持っていた。南海ユニフォームの復刻も、毎年限定で着るイベント用ユニフォームというイメージが少なからず頭の底にはあった。
しかし当日、甲子園のレフトスタンドに足を踏み入れた瞬間そんなナナメな気持ちは吹っ飛んだ。
今回の復刻されたユニフォームは、私が知る南海ホークスのずっと昔のユニフォームだ。選手個々はソフトバンクホークスの選手だ。だがそんな事はこの空間では関係なかった…。
俺たちの南海ホークスが還ってきたんだ…。
試合が始まると「ここは大阪球場のライトスタンドか?」と錯覚を起こした。選手応援歌がすべて1988年の主力選手の応援歌に差し替えられていたからだ。当然と言えば当然だが、粋な応援の演出に身震いした。
1本多→♪山口裕二のテーマ。2川崎→♪湯上谷宏のテーマ。 3松中→♪門田博光のテーマ。 4小久保→♪高柳秀樹のテーマ。 5柴原→♪佐々木誠のテーマ。 6松田→♪河埜敬幸のテーマ。7長谷川→♪山本和範のテーマ。 8山崎→♪吉田博之のテーマ。9大隣→♪ヒッティングテーマ。
もちろんラッキー7には「南海ホークスの歌」を歌唱。
応援コールも当時のもので「かっとばせかっとばせ○○、かっとばせかっとばせ○○、かっとばせー○○。阪神、たおせーっオーッ!」。「阪神、たおせーっオーッ!」などと、今ではどこのチームの応援団もやらない本来ならダサダサ応援だが、かえってノスタルジックな気分に包まれて良かった。

各選手たちも、今日はストッキングの見えるオールドスタイルでユニフォームを着こなしていた。シンプルなデザインのユニフォームと相まって実に格好いい。普段ロングパンツスタイルの松中選手もオールドスタイル。スタンドから観ていてとてもスリムに見えた。現に当日テレビ解説をしていた福本豊氏も後日のテレビ番組で「松中の足が速く見えた」と言っておられた。
そしてこのユニフォームを実際着ていた頃は、宿敵ジャイアンツの選手だった王監督。彼が着る南海ホークスのユニフォーム姿はいかなるものか?
実際のユニフォーム姿を観て、「やはり違和感がある」「案外似合ってる」と賛否はあった。私個人としては、なかなか似合っていたように感じた。先駆けて復刻着用された福岡ダイエー時代のユニフォームのときは、当時近鉄の選手だった大村選手や的山選手のFDHユニフォーム姿には違和感を感じた。あくまでも私の主観だが、今回の南海ユニフォームの着用で違和感のある選手・スタッフは見あたらなかった。このシンプルでスマートなデザインのユニフォームは、誰が着ても似合う素晴らしいデザインのユニフォームなんだと改めて感じた。

フィールドやスタンドの光景にタイムマシンに乗ったかのような錯覚に陥っていたが、それはスタンド下のコンコースでも続いた。高校時代の同級生の南海ファンに十数年ぶりに、ホームページを通じて知り合いになった方に数年ぶりに、また東京からわざわざ来られた方など、まさにそこは同窓会の様相であった。
そして、今日は南海ホークス20年振りの同窓会だと誰かが言った…。試合自体は逆転負けを喫してしまったが、私は夢見心地で帰路についた。

また8月の3日、4日の京セラドーム大阪のオリックス戦にても「南海ホークス復刻ユニフォーム」の着用が決まっている。こちらでは当日かなわなかった南海時代の「大旗」を振ることも検討されているという。それはそれで楽しみではあるが、甲子園という屋外の天然芝球場、ナイトゲームという雰囲気が私を20年前にいざなったように感じてならない。
PHOTO:南海鷹丸・rockwell